花 帰 葬 「御館様・・・!」 降り積もっていく雪。 首の無い、死体の上にもほとほとと落ち 赤く、赤く染まっていく。 隣で咽び泣くのは、己の主。 「旦那・・・」 「・・・某が、某が御館様の元に居たにも拘らず」 「もう、自分を責めるのはやめろよ」 「・・・むり、だ。これは俺の罪だ」 「・・・俺は、あんたさえ生きていればいいんだ」 「な、んだと」 茶色の瞳を目一杯開いて 驚いた様に見つめてくる。 頬についた返り血を拭いながら真っ直ぐ、視線を返した。 「俺は真田隊だ」 「っ御館様は真田の仕えるべき主だ!」 「それでも!」 はらはらと降ってくる雪。 地面に落ちた雪は、赤く染まり。 俺たちの髪や、頬や、身体に 降って、 降って。 何処までも白に引き込もう、と。 赤い、俺の主さえも。 「それでも、俺にとっては御館様より、旦那の方が!」 「佐助!それ以上言ったらその舌、切り落とす!」 頬についた雪が涙で、ゆるり、解けて 目の前の人は、冷たそうな涙を流す。 「旦那の方が、大事なんだよ・・・」 「ッ、言うなと、言っただろうが・・・」 いきなり白い絨毯の上に膝を突き ばたり、とそのまま倒れ伏す。 静かな世界に、嗚咽が響く。 近付いて髪に附いた雪を払おうと手を伸ばした時 虚ろな目で起き上がった旦那と目が合って。 「殺せ、佐助」 「何、言っちゃってんの?」 「紅蓮の鬼を・・・目の前に居る俺を殺せ、と言ったんだ」 涙は透明なんかじゃない。 真赤な、血の涙。 髪から垂れる雫も、赤い。 決して、己だけは白に染まらない、と言う様に。 視界の白の中に、赤が鮮やかに彩り 目の前の旦那は、ゆっくり微笑を浮かべた。 「俺が大事だと謂うなら、俺から全てを奪ってくれ」 「・・・ずるいよ、旦那」 「ああ。気が付かなかったのはお前だけだった」 幼い子供が悪戯をした時の様に クツクツと喉の奥を鳴らしてとてもいい笑顔を見せた。 それは見覚えのある、幼い頃の笑み。 「じゃぁ、約束しよ」 「なにを?」 「来世で、また会おうって」 「・・・あぁ」 優しく微笑んだ旦那の唇は 少し、震えていて。 けれど、それが寒さからなのか、 これから来る恐怖や痛みの所為なのかは 分らなかった。 愛用の手裏剣ではなく そこら辺に倒れている兵士の刀をすらりと抜いて そっと首に刃を当てた。 「さすけ」 「なんですか」 「あいしている、ぞ」 「・・・えぇ。俺もです。幸村様」 すっかり白に染まった戦場のたった一角。 赤に染まった雪の上 やんわり微笑んだ『死体』が 二つ。