神をむさぼる




マフィア界で知らないものはいない。
その存在は彼らの間では生き神と化している。
ボンゴレ]代目は大空のような人間だと。
どのような人間にも等しく慈悲を与える神の様だと。
マフィア界の頂点、ボンゴレファミリーのドン。
東洋人特有の顔は年齢が分かりにくいと言われているが、彼はさらに顕著だろう。
とても成人を越えたとは思えないが、子供の様な頬笑みで強烈な守護者の面々を纏め上げているのだ。
会談で一度対面した時はあの恐ろしさを知らなかった。
薄茶色の瞳に飲み込まれていきそうになる恐怖が。
じっとりと背に汗をかくのを必死に隠して、ひたすら笑う。
いや、笑わなければ、殺されていた。
終わったとき彼はにっこり笑って謂ったのだ。


「会談で人が殺されなかったのは久しぶりだな」


じりじりと彼の周りを固めていた守護者たちが此方を見つめている。
彼に笑いかけられた自分を殺したいと思う、さっきの視線が。

彼は確かにドン・ボンゴレで、神だ。
いっそ傲慢な程に人を引き付け、あっさりと切り捨てる創造主の如き存在。
あの創造主を目の前に跪かせたら何と心地の良い事か。
手の中で踊らせたら如何程美しい人形になるか。
己の下で鳴かせたら、どれ程可憐に鳴声をあげるか。


ああ、欲しい、あの神が。














黒い鉄の塊を額に当てた。
きょとんとした顔の後、いつも通りに笑った目の前の人に此方も笑いかける。


「キミの事を神様だって言う奴らがいるって知ってる?」
「俺は、しがないただの人間だよ」
「まさか。君は神様だよ、この世界のネ。キミはそうは思っていないだろうケド」


困ったように米神をかくこの人は緊張感ってものを持っていないんだろうか。
以前とは反対の状況、つまりミルフィオーレの守護者たちに囲まれた、ボンゴレ。
彼は自分と同じように作り笑いをしているとは到底思えない。
ただ心の底から出る底の無い微笑を浮かべている。
背後の気配が緊張を伴う。


「要求は」
「僕のものになって、サワダツナヨシ」
「断る」
「なら僕が神様ってやつになってあげる。イイの?キミの居場所は無くなっちゃうよ?」
「俺はね、白蘭」


ふぅ、一つ溜息をついて
見たことも無いような顔で笑った。
それは大輪の花の様に純粋で、どこか壊れた


「俺の代わりにこの位置に誰かが収まることを望んでるんだよ」
「俺は、もうこの世界では生きていきたくないんだ」
「白蘭、俺を殺してその死体を貪ってまでなりたいものなんだよね。その神様ってやつは」


なら、
引き金に掛っている指に手が重なった。
ゆっくりと瞼が閉じていく。
あの瞳が見えなくなった瞬間、頭の中で誰かが、やめろ!と叫んだ。
がちがちと歯が鳴り出す。
がくがくと震える手を強く、強く握っている小さな手の持ち主はゆっくりと口元を釣り上げた。






そして、引き金が、引かれる。