ビニール袋の檻と金魚




薄っぺらいビニールの中でゆらゆら揺れてゆらゆら笑う。
耐火、防弾等等、ビニールと云えどその強度はコンクリート並。
その中でビニルの中を支配する羊水にこぽこぽ息を吐き出しながら、笑う薄茶色の小さな姿。
真白な手がにゅうとこちらに向かって伸びてくる。
ビニル越しに手を合わせれば、ひんやりとした水とその中で燃えさかる様な程熱い反比例したような掌が触れた。
ゆるり、わらうこども。







あのときあの子供は己のファミリーのボスに負けたのだ。
電池が切れたかのようにぷっつりと心臓を止めたその子供を無我夢中でラボへ引き摺り込んだ。
ぐんにゃりとした感触
生暖かい体温
開いた瞳孔
まるで悪夢を見ているよう。
思考しながらも手は淀みなく動き、心臓にパーツを埋めていく。
子供はきっとまた動くようになる。
羊水の中に子供を閉じ込めた。







ゆるりとした笑み以外にこどもはあまり表情を出さない。
唯羊水の中をゆらゆらと優雅に泳ぎまわり、くるりと一回転。
童話の中に出てくる悲しい人魚姫の様なその容貌に思わずこの檻から出してやりたくなるが
此処から出たら最後、この子供はきっと死んでしまうであろう。
一度朽ちた身の所為か、この中から出ると肉体が崩れていってしまうようだ。
声を出すという事を生前に置いてきてしまったのか、一言もあの高い凛とした声を聞いていない。
一度ここから出した時など、ぐずぐずと崩れ落ちていく己の右手を黙ったままじっと見つめて
いつものようにゆらりと笑うこの子供に背がぞくぞくとした。


掌を離し、相変わらず優雅にゆらりと泳ぐツナヨシ。
壊れたような表情。
焦点の合ってない虚ろな瞳。
日に当たらない地下室の所為で、真白になってしまった、崩れやすい身体。
くるり、一回転。
喝采の声は聞こえず虚ろな瞳からは暗い暗い闇が浮き上がっている。
その闇の深さに心底背筋が凍り、膝をがくりとついてもなおその眼から視線が外せない。
ゆるりと伸ばされた掌がビニルを突き破りだんだんと己の身体が羊水に浸かっていく。
頬にひたり、添えられた掌は燃えるように熱くて--------------





眼を開けたら水の中だった。
母の胎内に居るように安心する、温かい場所。
ごぽ、水泡が口から零れ、上へ昇っていく。
それを見届けた後正面に向かえば、茶色の子供が此方に笑いかけていた。
子供の口はすぱなと呼んだ。
俺はすぱなという名前なのか。
何も分からない
唯此処はとてもあたたかくて、
ゆるゆると瞼を落せば声が聞こえた、
おやすみ。すぱな。

これは寝る前のあいさつなんだろう、多分。
おやすみ、と言おうとしたが声は出ず、どろどろと眠りの世界に俺は取り込まれていった。
優しくて何もかもが融かされる世界へ。





(あの子に、おやすみ、と言えなかったことだけが残念だった)