ぽん、ぽん。
単調なメロディがまどろみの中聴こえ
ゆるゆると瞼を押し上げた。


「…た、か、すぎ」


嗚呼、懐かしい。
白と黒の鍵盤が並んだ楽器の音。
似つかわしい後姿に小さく笑って白い枕に頭を乗せれば
ぴたり、と音は止み、とんとんと足音がした。
顔を上げれば、夕暮れの橙色の日が差し
唇がゆるりと柔らかく笑んでいるのが見えた。


『    』














「ねぇぎんちゃん」


ゆっくりと瞼を開けば桃色の髪が見えた。
単調なメロディは聴こえずただ静寂の中、名前を呼ぶ神楽がいるだけだ。
まだ眠ったままの頭を回転させ、どうした、と呟いて頭を撫でてやる。


「定春の散歩行って来るアル。ちゃんと起きててヨ」


ぱたぱたと廊下を走り、玄関の戸が閉まる音がし。
寝転がったままのソファの上で伸びをした後
ぼぅと窓の方を見れば、橙色に染まる空が見えた。


「たかすぎ」


『銀時』


決してもう聞くことの出来ないあの声を思い出しながら
ソファの上で丸まって、目を閉じた。




耳の奥で響く、単調な音
瞼の裏に写る、あの日の落日
手離した、心地よい日常と優しい温度は




もう、戻って来ないと分かっているのに。




(それでも忘れられない、君の温度。)