のうぜんかつら
「銀ちゃん、アレ買ってヨ!」
「ん?」
繋いでいた手を引っ張られ、神楽に、アレアレ!、と楽しそうに駄菓子屋の軒先まで連れて行かれる。
分かった分かった、と一緒に小ぢんまりとした駄菓子屋に入った。
「コレとコレとー」
「あんま買うなよ、金無いから」
「じゃぁ大串のツケで良いアル、あいつ公務員で金持ちヨ」
「神楽ちゃん、俺は大串君のヒモじゃないのよ?」
「じゃぁ銀ちゃん買って」
「…しょーがねぇな」
嬉しそうに小さなかごに駄菓子を入れる神楽。
桃色の髪も何処か嬉しそうにふわふわ揺れている。
コレじゃぁまるで買い物帰りに菓子をねだられるお母さんじゃねぇか。
小さく一人で苦笑した。
「あんま買い過ぎんなよ。虫歯んなる」
「銀ちゃんこそ糖尿どうなったアルか?」
「ノーコメント」
かごを覗き込めば着色料が多量に含まれているであろう桃色のブロック状の菓子。
箱に入ったオレンジ味のガム。
木のスプーンが附いた小さなヨーグルト。
チューブに入ったグレープジュース。
「酢昆布はいーのか?」
「たまには違うもの食べたいヨ、純情な乙女心ネ」
「新八にも何か買ってやれよ」
「このガムの箱で十分ネ」
「…新ちゃん泣いちゃうからね、それじゃぁ」
「じゃぁこれでいい?そこら辺にあったヨ」
これまた着色料が豊富そうなチューブゼリー。
答えを聞く前に神楽はそれをかごに入れ、また色々と商品を漁りだした。
子供は元気だ、と思いつつも辺りを見渡せば、何処か懐かしい香りがするものばかりで。
あの幸せだった時を、思い出してしまいそうだ。
「…銀ちゃん」
「あ?終わったか?」
「銀ちゃんは、何か買わないアルか?」
「なんで」
「…銀ちゃんだけ買わないの、不公平ヨ」
かごを渡され、じぃ、とこちらを見る神楽。
其の目は何処か真剣で、自分が上の空だったことを見抜かれたのかもしれない。
子供にまで気を使わせてしまったなんて、駄目な奴だな、俺。
手を頭に置いて、珍しく結ばれていなかった髪をぐしゃぐしゃとかき回すように撫でる。
痛いヨ銀ちゃん、小さな声が聞こえた。
「じゃぁ銀さんも買っちゃおっかなーいっちばん高いやつ」
「ずるいヨ銀ちゃん!私なるべく安いもんばっか買ったヨ」
「大人ッつーもんは汚いんだよ神楽ちゃん。銀さんなんてもう腹の奥まで真っ黒だ」
「大串は肺の中も真っ黒ヨ。掬いようの無いマヨラーだなアノヤロー」
「そうそう、だから大串君には近寄っちゃ駄目よ神楽ちゃん。暗がりに連れて行かれちゃうよ」
新八が聞いたら、そんな訳あるか!何子供に教えてんですか銀さん!、なんて即座にツッコんでくるんだろうなぁ、と思いながら
甦りそうになる思い出を振り払い、きょろり、と辺りを見渡した。
とりあえずプラスチックの箱の中に入ってたスモモの袋をかごに入れ、
さっき神楽が買ったのと同じヨーグルトも入れ。
店の端に鎮座していた冷蔵庫を開けた。
寒い所為か、誰も空けた形跡の無いその中に、瓶のソーダ水が、あった。
「………神楽、これも」
「寒いのにソーダ?銀ちゃんとうとう頭パーになったアルか?」
「まぁまぁ。お前の分も買ってやるから」
がしゃんがしゃん、俺と神楽と新八の分の3本をかごの中に突っ込んで。
店の奥に居る婆さんにかごを渡せばくすくす笑われた。
きっとこの婆さんは、俺と神楽の会話を聞いていたんだろう。
そりゃァ大の大人、しかも男があまりにも所帯じみた事を言いながら駄菓子屋を物色してるなど、おかしくない訳が無い。
少し気恥ずかしくなって頭をぼりぼりと掻き、言われたとおりの値段分の小銭を渡せば。
おまけだよ、と、瓶のソーダを無理矢理持たされてしまった。
「銀ちゃん、なんで4本あるの?」
「婆さんがおまけだっつってくれたんだよ」
「どうするの?それ」
「………黒い犬にでも、やるかな」
持て、と菓子だけ入った袋を神楽に差し出せば、おとなしく受け取って
ここまで来た時のようにまた手を繋いで、歩く。
ああ、そういや昔。
お前とこっそり抜け出して、駄菓子屋行ったな。
ずーっと手ぇ繋いで、くだらない事で笑いあって。
帰った時、ヅラにめちゃめちゃキレられたけど、それでもお前はずっと笑ってて。
繋いだ手がもう離れないんじゃないかって思うくらいぎゅうぎゅう強く握ってきたな。
なぁ、あの時買ったソーダの味、お前はまだ覚えてんのかな。
「銀ちゃん、痛いヨ」
「…悪ぃ」
「泣いてるの?ネェ銀ちゃん?」
「泣いてねぇよ、ばーか。他人の心配する前に自分のハラ、心配しろ」
女じゃあるまいし、あいつを想って泣きそうになるなんて。
馬鹿だ。こんな子供にまで迷惑かけて。
そう思いながらも胸の奥から込み上げる何かは溢れて止まらない。
気配で此方を伺う神楽に気付かれないように。
灰色のコンクリの上に、一粒、涕を落とした。
(いつまでも二人は永遠だと信じていた、あの時)
music*のうぜんかつら/安藤裕子
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