(なかないで、かみさま)
銀色のそいつをかみさま、と呼んだ。
そいつは少しだけ悲しそうな顔で、かみさまなんかじゃないよ、といった。
みんなは気味が悪いといって誰も近付かなかったけれど、その色はどうしても同じ人間とは思えなかった。
きっと空から落っこちてきたんだ。かわいそうなかみさま。
そっと手に触れたら、それはそれは冷たくて。
自分の熱が段々ととられてゆく様で、不思議な感覚だった。
「晋助は銀時が気に入ったんですね」
せんせいのこえ。
そうじゃない、と思う。
気に入った、なんかじゃ、気持ちが軽すぎるんだ。
このまんま、繋いだ手がずっとこのまま離れなきゃいいと思うくらい、離れがたい感情。
あの頃の俺には表現出来ないような、奥深いもの。
「さすがだな、白夜叉サマ。今日も大勝じゃねぇか」
「…いい加減俺を神かなんかのように言うのはやめろよ、高杉」
「そりゃ無理だな」
一言言って、あまり柔らかくない膝の上で瞼を閉じる。
ぶつぶつと文句を言う声がきこえるけれど、決してこいつは退けとも何とも言わない。
きっと銀時が自分に良い様にされているのはこの左眼のおかげなのだろう。
数日前の戦で、こいつを庇って出来た傷。
光を伝えない左眼。
なんておまえはばかなことをしたんだおれなんかかばったってしょうがないじゃないか
泣きながら縦に奔った傷を辿る白い指が、己の赤で汚されていく。
ぽたりぽたりと落ちる涕。
頬に伝った其れを舐めればあまりの塩辛さに舌がピリピリとした。
こいつは全部が全部、甘いもので出来ていると思っていたからとてもとても意外で。
銀時は俺の仕草を真似るように、左頬に伝う血を舐めとった。
たまらず、無理矢理唇を重ねれば口の中は鉄錆を食んだかの様に苦くて。
それでも舌を絡めた。
頬に当たる透明な涕が冷たくて、口に入ってきたそれはしょっぱくて。
ずきりずきりと左眼が痛んだけれど、それよりも目の前の表情を見た時の心の方がずっとずっと痛くて。
唯唯、戦場の真ん中で舌を絡めあうことしか、出来なかった。
「なぁ、なんで泣いたんだよ銀時。あん時」
「自分で考えろ、ばか杉」
真白な穢れ無き体を
傷つく事のない透明な心を
何故こんな浅ましい俺の為に晒すのか。
「なぁ、なんで。なんで俺なんかのために泣いたの?お前は」
こんなずるくて小賢しい俺の為に。
何故そんなに悲しそうな顔をして、涙を流す?
「…なんで、だろーな」
悲しそうな眼をして、唇を少しだけ吊り上げて。
銀時は笑った。
「あの時。お前だけが、俺の手を握ってくれたから、かな」
冷たい、ひんやりとした手。
決して温まることの無い掌。
白く、骨張った手を握り締めた。
あの頃のように柔らかくは無く、唯皮ばかりで硬く、冷たい手。
「相変わらず冷たいな、手」
「…夜叉に体温なんかいらないから」
「ばーか。………テメェは人間だろ、銀時」
小さく呟けば
驚いた表情を一瞬浮かべた後
泣きそうな顔をしてかみさまが笑った。
(自分にとってはかみさまのような存在なだけだった。たったそれだけ。)
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