薔薇


ぱん、と戸を閉めた。
滅入った気を抑えるように。



「佐助」
「はいはいっと、何事?」



いつの間にか後ろに座っていたその人に少々驚きつつ。
ちょいちょい、手招きをする旦那に近付けば
す、と傷だらけの腕が伸びて、両手が頬を包んだ。
こつ、と合わせられた額。
少しだけ困ったような顔が此方を見上げていた。



「顔色が悪い・・・熱でもあるのか?」
「いつもの事だよ」
「佐助」
「・・・・・・なんで旦那はこういう時ばっか鋭いんだろね」



温かい掌から離れて、閉めた戸を開けた。
ざぁざぁ、降る雨。



「雨・・・か?」
「そ。俺様ってば雨嫌いなんだよね」
「なぜだ?」



黒い苦無を持ったのも、こんな雨の日。
金色の光が見えない、雨の夜。
この手を血に染めたのも、こんな雨の日。



「俺の手は、もう元の色には戻らないんだよ」
「血を浴びすぎたから。か?」
「真っ黒い、どす黒い血がこびり付いて取れないんだ」
「・・・そうなのか」
「雨じゃ、落ちない。ただ、掌が黒くなっていくだけ。
 俺を救ってくれやしない・・・だから、雨は嫌いだよ」



ぱたぱた、雨が屋根を打つ音。
しん、と静まり返った中では
やけに大きな音で聞こえた。



「ならば、これをやる」



ぱらぱら、と掌に振り撒かれた
赤い、花弁。
甘い香りが、部屋を支配する。



「これならば、黒くないであろう?」
「・・・旦那、赤って血の色だよ」
「血ではない。某の色だ」
「頭の悪いお方だ、幸村様は」
「なんだ、嬉しくないのか?」
「・・・嬉しくないわけ、ないでしょーが」



混じりけのない、純粋な赤。
目の前の主の様な色。
思わず愛しさが込み上げて、そっと抱きしめた。



「なんだ、佐助」
「なんでもないよ、旦那」



ぱたぱた。
屋根を打つ音が
少しだけ、遠くに聞こえた。