ドラッグ・ストア 裏通りのマンションの一室。 広い、薄暗い部屋の中。 差し出された紙幣に見合った色取り取りの錠剤をばらり、と手の上に乗せてやれば 目の前のちょっとイかれた目の男は嬉しそうに笑った。 嗚呼、やっぱり此処は腐ってるな。と思う。 「よぉ佐助」 「元親じゃん。どったの」 「通り掛ったらたまたまお前いたから」 右眼を細めクツクツと笑う元親。 眼帯によって隠れた左眼は『昔色々やった』時に失くしたと言っていた。 元親は『仕事場所』に設置されたもう一つの椅子に腰掛ける。 「今日はつれてないの?あの子」 「蘭丸?あいつは今日お眠だから家で寝てる」 どういう経緯かは知らないけれど 元親は『蘭丸』と呼ぶ子供と行動している。 かなり口の悪い子供なのだが頭の回転が速いらしい。 「あの子、シルシつけちゃったんでしょ?」 「モチ。あいつは俺のもの」 「で、あんたはあの子のもの、ってか?」 「ご名答」 にぃと吊り上げた口端。 咥えていたチュッパチャップスをべろりと舐めれば かちり、と小さな音。 見れば真赤な舌に銀色のピアスが突き抜け光っている。 「開けたんだ、舌ピ」 「あいつのシルシだよ」 「そいつぁお気の毒」 けらけら笑えば、まぁあいつも開いてるからな、と暢気な答え。 唯でさえ元親のピアスは耳だけに留まらず口やら臍にも開いているというのに。 いつか体が穴だらけになるんじゃないか、と思う。 「流石にニップルとかはやめろよ」 「其処までピアス愛してねぇっつーの」 「いやいや十分愛してるよ」 「・・・そーかも。言っちまえばお前は原形、ピアスは比較級、蘭は最上級だ」 「なんで無駄に英語の知識とか引っ張り出しちゃってんの」 「例えだっつの」 元親が笑うごとに聞こえるジャラジャラという音。 耳にくっ付いている金属同士が不協和音を奏でているが 本人は全く気にしちゃいない。 いいけどね、と苦笑してクスリだらけの戸棚を開ける。 「あ?客か?」 「そろそろ来る頃じゃないかなーと思って」 「んじゃ俺帰るわ」 「今度はあの子と一緒にきなよ。珈琲くらいは出すから」 「クスリ入りは勘弁してくれよ」 ひらひらと手を振って ずるりずるりとあまり聞かない特徴的な靴音を鳴らしながら 薄暗い部屋から出て行った。 一つ伸びをして机の上にクスリを置いて 近くにあったリモコンでコンポの電源をつける。 流れ出すのは悲しげなピアノの音。 目を閉じて背凭れに背を預けて。 少しの間、と思って目を閉じた。 寝起きの頭ではかちゃり、とノブが開く音に反応するのが遅くなった。 それでも眠気を必死に払い、ドアの方向を見る。 薄暗い中に、黒い人影。 「いつまで其処にいんの?こっちきなよ」 少しの間逡巡して躊躇いがちに現れたのは 薄茶色の髪と瞳を持った細身の男。 十代後半と思われる容貌。 歩く度に伸ばされ束ねられた髪がふわふわと揺れる。 それと共に、ちゃりちゃりと軽い音。 少し前に立ち去った元親のピアスが奏でるような。 「あれ、御新規さん?」 「・・・主人が、取りに行け、と」 「主人?」 見ればこの子の首には真赤な首輪がついてる。 (しかもご丁寧に鎖付きだ) でもどう見ても不満気な顔。 そのままの表情で諭吉さんを差し出してきた。 「・・・何それ・・・シュミ?」 「知らぬ。俺だって好きでやっている訳ではない」 「そんなゴシュジンサマなら逃げちゃえばいいのに」 「・・・行く所なんて、ない」 くしゃくしゃの紙っ切れを受け取って 机の上においてあった粉入りの袋を差し出す。 悲しげに伏せられた茶色い瞳を見てしまって 少なからず動揺してしまう。 袋を右手で受け取ったその子はぺこり、と頭を下げて かちゃん、と暗闇の中のノブに手をかける。 「ねぇ、ちょっと!」 振り返った瞬間。 ほんの少しだけ差し込む月明かりで きらり、と首輪が輝く。 「行くトコ無いなら、俺んトコ、きなよ」 おっきな目をぱちくりと開けて あんぐり、大口を開けた。 ちゃり、と鎖が音を立てる。 「・・・いきなり何を」 唖然、とした声色。 パチパチ、瞬きをして。 「・・・気に入っちゃった、アンタの事」 「お主、酔狂だな」 「そんな事、こんな職業やってる時点で気付かなきゃ」 そうか、と一言、言い 暗闇のドアを開けて、出て行ってしまった。 チャリ、と鎖の音を残して。 「え・・・俺、フられた?」 あんな事を言ったにもかかわらず 無反応かつ無関心であっさり出て行ってしまった。 肩透かしを食らった気分で気分はどん底。 せっかく自分好みの子だったのに・・・と嘆いても ただ、暗闇が広がっているだけだった。 「ダサいな」 「ほんとだよ。ヘタレ」 「酷いよお二人さん」 夕暮れに尋ねてきた二人。 相変わらずジャラジャラとつけたピアスが煩い元親に 左眼に何故か眼帯をつけた蘭丸。 「・・・ものもらいでも出来たの?」 「違う!元親がシルシだって左目抉ろうとしたの!」 「えぐ・・・なにしてんの元親」 「俺のシルシ附けようとしただけ」 「・・・で、抉られたの?」 「まーさか。妥協案で左眼眼帯にピアスじゃらじゃら」 ほら、と見せられた耳には確かに異常な量のピアス。 これで俺のものー。とご機嫌でチュッパチャップスを舐める元親は 長い襟足をくるくると指に巻きつけて遊ぶ。 因みに右の襟足を赤いボンボン附きのファンシーなゴムで縛り 左の方には丁寧にみつあみが編みこんである。 正直とてつもなく気味が悪いけれど見ないフリ。 「まーしょうがないよ」 「・・・そうだね」 「つーか首輪ってどんだけ趣味悪ぃんだよ」 元親がけたけた笑えば、じゃらり、金属音。 蘭丸が肩を震わせ笑いを堪えれば、しゃらり、金属音。 ・・・少しだけ羨ましい。 「あーあ。俺も相手欲しい」 「そこら辺の女でも引っ掛ければ」 「お前まぁまぁ顔良いしな」 「昔それやって変なおっさんに悪戯されそーになったからヤダ」 「俺もぉ。チョー気持ち悪かった」 「ふーん。趣味の悪い親父もいたもんだね」 「蘭丸・・・」 がくりと肩を落とす元親。 肩を叩いて慰めれば、インターフォンの音。 客の合図。 「俺らお邪魔?」 「や、別にいーよ。蘭ちゃんドア開けて」 「しょーがないなぁ」 がちゃん、とドアが開いて ひょこっと頭を覗かせたのは、薄茶色の髪と瞳。 首輪はもうつけていなかった。 「っあんた」 「おぬしが此処に居ろと言ったから来てやったのだ!」 ありがたく思え!と頬を赤くしながら 視線を明後日の方向に向けている。 その姿に鼓動が早くなっていく。 嗚呼、この感覚だ。 久しく感じていなかったモノ。 「うん、ありがと。ついでに名前、教えてくれない?」 「・・・幸村だ」 「俺は佐助。よろしくね、幸村」 「あぁ」 いつの間にか居なくなった元親と蘭丸に「すまない」と思いつつ 擦り寄ってきた細い体を ぎゅぅと抱きしめた。 こうして不思議な同居生活は、始まった。 * * * ゆきに刺青をいれるさすけ!の予定だった。 |