『人の腹から生まれただなんて思えない』


返り血を浴びたまま無言で立つ、幼い俺を見て人々は。気味が悪そうに、ひそひそと声を潜めて、口々にそう言った。


(もしかしたら、自分は何処か操作されたのかもしれない)


そう思いながら次々と手を赤く染めた。それが己の義務。その為に生まれた殺人兵器なのだ。この身を赤く染めるために生まれた存在。











Il bambino che nasconde
e ride ad una bugia













「お主の名は?」


薄茶色の幼い瞳が見上げていた。里一番の忍の名を欲しいがままにしていた俺に声をかけるなんて、お門違いなガキだと。ゆっくり視線を外して無視。


「なんだ、お主話す事も出来ぬのか。まったく、忍というものはつまらぬ」
「・・・忍は話し相手じゃねぇよ」


ぼそ、と言ってやればくすくす笑い声。見れば、その餓鬼は目を細め、口元に手をあて。妙に大人びた顔で笑っていた。薄茶色の瞳がゆらり、揺れて、何処か淫靡な雰囲気を醸し出した。ぞくり、と粟立つ背筋に気付かない振りをして得体の知れない目の前の子供を凝視。


「お主の名は?」
「・・・猿飛、佐助」
「佐助、俺と来い」
「やだよ。ガキのお守りは嫌いなんだ」


ふ、と見上げた空は嫌というほどあおくてなんだか逆にきぶんがしずんだ。そういえばかすがはどっかのお偉いさんに雇われたらしいな。俺も早く雇い主を探さなきゃいけない、目の前のガキじゃない、美人でナイスバディなおねぇさんがいい。


「断るのか」
「いってるだろ、嫌だって」
「・・・ならば仕方がないな」


ひたり、首元に押し付けられたのは紛れもない刃。今まで何処に隠していたのだろうか、と思うほど大振りなそれを片手でいとも容易く扱っている。このガキやばいんじゃないかと頭の隅で思いつつ、この状況をどのように切り抜けようか、考える。


「そんな物騒なもの、まだ早いんじゃないの?」
「餓鬼に背を取られて悔しいのか、駄目忍者」
「・・・殺すよ?」
「無駄だな。お前が俺を殺す前に俺がこの首を刎ねてやる」


確かに下手に動けば首がちょん切れる。このガキを動揺させようと思っていったことだったが予想以上に反応が薄くてなんだかやる気まで削がれた。どのみちここから抜け出す手段なんてなくてやれやれと両手を挙げ、降伏の合図。


「はいはい、降参ですよ。これだから下手に頭の回るガキは嫌いなんだ」
「ふん、駄目忍者にそのような事が言えるのか?井の中の蛙の分際で」


降参した事を一瞬で後悔した。


「だが、お前は確かに強いからな。俺の元に居て欲しいと思ったことも確かだ」
「・・・こんな殺人兵器を?」


真っ赤に染めた掌。『人の腹から生まれただなんて思えない』ぼそぼそ聞こえる声。人の腹から生まれたのでなければ何処から生まれるのだろうか。よく考えた事はないがもしかしたら本当に機械なのかもしれない。だから痛くない。涙なんて持ち合わせていない。他人を想う心すらない。こんな俺を欲しがる物好きなんて、居ない筈なのに。


「あんた、名前は?」
「真田源次郎幸村。幸村様と呼べ」


踏ん反り返った子供に「やだよそんなの似合わない」と苦笑すれば「ならば勝手に呼べ」と言い、ぐん、と力強く腕を引っ張られた。幸村は誰かに向けて手を振った。視線の先には父親と思しき男。


「嗚呼、あの男を見る度反吐が出そうになる」


笑った幸村が、小さく呟いた。









嘘をかくして哂うこども