緋色池





信じたく無かった。無造作に盛り上がった土の山の頂に、ニ槍が刺さっている、だなんて。 足を進めるたびに腹からぼたぼたと何かが落ちていく音がしたけれどそんな事気になどならなかった。 残っていた苦無を我武者羅に衝き立て、砂の山を崩していく。 程好く日に焼けた見覚えの有り過ぎる腕が見えた。 目の前が、真っ赤に染まっていき、ただ無意識の内に苦無を動かす。 掘り出したのは、紛れも無く

「…ゆきむら、」

傷だらけで息絶えた主の、痛々しい亡骸。 ほんの少しだけ色付いていた頬は白く血の気が引き 燃えているのかと錯覚する程熱かった掌は、冷たく冷え切っている。 ぱりん、と耳の中で何か割れる様な音がし、一瞬で無音の世界に放り込まれた。







「、さすけ」
「んー?なにダンナ、そんな深刻そーな顔して」

熱あるの?、と掌を額に当てればいつもの温度。 いつもならば「子ども扱いするな!」と怒鳴る筈が今日に限って押し黙ったままだった。 少しして、額に当てたままの手を握られ、ゆっくりと顔が上がった。

「頼みを、聞いてくれぬか」
「?いいよ、別に。団子?」

不思議に思い、あっさりとそう口にすれば「そうではない」と首を振った。 謂い難そうに俯き、ぐ、と唇を噛む。 握られたままの手は、段々力が入って、痛みを覚えるほどだ。

「某は、もうすぐ、死ぬ」

がん、と頭を殴られたかのようだ。 相変わらず幸村は俯いたままで俺を見ようともしない。 震える唇で、何とか声を紡ぐ。

「うそ、だろ」
「…きっと、政宗殿に」
「やめてよそんな冗談、笑えないって」
「冗談ではない!某は本気で」
「やめろ!そんな事謂うな!」
「聞いてくれ、佐助」

ぎり、とまた掌に力がこもった。 顔を上げた幸村と目が合う。 瞳は真紅に燃え上がり薄い水の膜が張っている。 涙壷に入りきらなくなったのか。涙が、ぱたぱたと畳の上に落ちた。

「もしも、もしもこの心の臓の音が聞こえなくなった其の時は」




「俺を喰い、全てを佐助、お前に――――」








「分かってるよ、幸村」

土埃で汚れた唇を袖で拭ってゆっくりと口付けるれば、其処も驚くほど冷たかった。 無音の世界から一変して、遠くで聞こえる馬の足音と雄叫びが脳の奥で響いている。 嗚呼、あんたの命を奪った忌々しい奴がまだこの世界にのうのうと生きているんだ。

心がひやりとした。

「あんたの願いは、俺が叶えてあげるから」

ずぶ、と尖った爪を皮膚に押し込めればあんたの色が零れてくる。 鉄錆の香りが辺りに充満したけれど、それは芳しくて。 あんたは何処までも其の色に染まっているんだと少しだけ笑った。 溢れ出る其れを舐め取り嚥下すれば、ぼう、と酒に寄ったかのように目の前がくらくらと廻る。 舌の上に残る甘み。きっとあれだけ毎日甘味を食べて居たから。 きっと、其の所為だ。

「嗚呼、愛しいよ、あんたが」

湧き出る泉の様な赤に顔を埋めて肉に歯を立てた。 心の奥で(獣のようだ)と誰かが嘲り笑っている。 (死人の肉を喰らい、己の血肉にするなど、獣のする事だ。) (お前は其処まで堕ちた存在だったのか。) (今の姿、気が狂ったようにしか見えんな。)



「…獣でも良いさ。これで幸村の願いが叶えられるなら、ね」