スカイブルー・ティ・ブルー
嫌んなる程空は真青だ。
と謂うか、スカイブルー。
壁に掛けられたカレンダー、今日の日付には赤い花丸がついていて
その下に汚い文字で『さすけとピクニック』と書いてあった。
(俺の名前の漢字も書けないんかい、と小さくツッコんだのは秘密だ)
勿論企画者はダンナ。
二週間前に無駄に熱く上がり込んできたかと思えば、
それを書いて俺が作った鰤の照り焼きを勝手に食べて帰ってしまった。
「おっかしいなー…?」
天気予報は雨のはずだったんだけど。
うん、あのお姉さんキレイだからよく見てるの。
やっぱ駄目だな、顔で選んじゃ。やっぱおっさんにしとくべきだった。なんたってキャリアが違うから
そんで落ち込んだダンナをベッドの中で優しく(ここ重要)慰めてあげる予定だったんだけど。
「ちぇ、ぬか喜びさせんなよな」
それを謂うなら取らぬ狸の皮算用か、と一人呟いて戸棚から重箱を取り出す。
漆塗りだかなんだか知らないけど、この前の授業の時大将から渡されたものだ。
(ワシの弁当はそれで良いぞ、と言われたのは聞かなかったことにした。だって俺様はダンナの専属シェフ!)
こんなもん正月以外で使うわけない、とこの前仕舞ったのに。
次々と出来上がる料理を詰めていけば、ぎっしり入った弁当箱に俺の心は何かむしゃくしゃしていく。
「…ちくしょー」
「なーにがちくしょうだ馬鹿者め」
「あらダンナ。俺様まだお化粧してないからちょっとこっち見ないで」
「…大丈夫か?頭をベッドの角にでもぶつけたのか?」
「ううん、ちょっと謂ってみたかっただけだから気にしないで」
振り向いて心配そうな顔をしたダンナにおはようのちゅーをかましてみれば、
なんだ元気ではないか、とケラケラ笑ってくださった。
「ねぇダンナ、お弁当これで良いの?この前大将に貰ったんだけど」
「あぁ、山登りは中止だ」
「…ピクニックでしょ?いつから山登りになったの」
「気にするな、中止だから」
「なんでよ。俺様面倒くさがりながらもちゃんとお弁当作ったのに」
「…強制イベントがな…」
「あぁはいはい。今日は何だったの」
強制イベントは一々説明するのが面倒になったダンナが使うようになった言葉で。
まぁ大体どっかの青い人絡みの事なんだけど。
どうせまた赤い薔薇持って屋上から飛び降りてプロポーズでもしたんだろ。
ほんと片倉さんが可哀相で仕方ないよ。
「つけられた」
「え?」
「此処に来るまでずっとあとをつけられたのだ」
「………あぁそう」
もうあいつどうしようもないんだな。
しみじみ実感しつつ、重箱の中身をテーブルの上に置く。
すかさず伸びてくる、赤い猫ちゃんのついた箸。
出し巻き卵を頬張って幸せそうに、にこにこしてるダンナ。
(ああ、ほんとに可愛いんだからこの子は!!)
「多分出かけたら偶然を装って邪魔するに違いない。だから今日は中止だ」
「へぇ、旦那邪魔されるの嫌なの?」
「当たり前だろうが…デート、だろうが…」
「デー…」
デー、ト。
山登り(しかもダンナのことだからめちゃくちゃきつい山を選びそうだ)しながらうふふあははデートする図も思いつかないけれど
何はともあれいつもはそんな事を一言も謂わない恋人からそのような言葉を聞くと少なからず嬉しさというものを覚える訳で。
朝の憂鬱はどこかへすっ飛んで、俺の気分は急上昇。
「じゃぁ今日は俺の愛車で出かける?」
「自転車ではないか」
「お弁当持って二人乗りで出かけるなんて俺らにぴったりのデートコースだけど?」
「お主がそれで良いと謂うなら別にいい」
もう昼時に近い時間。
暇つぶしに焼いたワッフルに蜂蜜を掛けて差し出せば、おぉ、と歓声の後に物凄い勢いで食べ始めるダンナ。
可愛い顔をして大食らい(しかも食べ方汚い)だなんて卑怯だ。
行儀が悪い、と大将が見たら一発ぐらいぶん殴られるかもしれないけれど俺にとってはもう可愛くて可愛くて仕方ない訳で。
「じゃぁそれ食べたら出かけよっか。だんなココ蜂蜜ついてる」
「む、すまぬ。だがどこに行くのだ?佐助、くすぐったいぞ」
「当たり前でしょ、舐めてるんだもん」
「破廉恥だ」
結局俺は、口の周りをワッフルのカスだらけにしてけたけた笑うダンナを結果的には甘やかしてしまうのだ。
(だって所詮惚れた方が負けなんだからしかたがない!)