針の様な三日月みたいに
きみはぼくを削り取ってく
灰色の空に浮かぶ細長い月。
星明りなんか全く気にしないように、鋭く光る。
(それは誰も寄せ付けまいとするようないろで。)
触れたら傷つけられてしまいそうなほど尖っている。
満月の時とはまた違った雰囲気のそれは、少しだけ俺を安心させる。
(その光をあびる俺も、おなじようなもの。)
さすけ、小さく呼ぶ声が聞こえ。
どたどたどた、顔に似合わないような豪快な足音と共に、
背後の襖がぱしんと小気味良い音を立てて開いた。
振り返らなくても分かる、きっと後ろ髪を靡かせながら廊下を全力で疾走してきたんだろう。
(その証拠に息が少しだけあがっている。)
なぁに、柔らかい声色が喉の奥から吐き出された。
(昔の俺からは到底考えられないような声。幼い俺がこんなの聞いたら嗤うのかもしれない)
だけれどもそのまま動く気配はなく。
暫く経った後に、何も言わずにとん、と隣から座る音。
なにを見ていた。
月ですよ。ほらアレ。綺麗でしょう。
( お れ み た い で )
そのまま黙ってしまったダンナは何か考え込んでいるようで。
こうなってしまったら何を言っても耳に入らない。
春がもうすぐ過ぎようとしている所為か、今夜は生暖かい風が吹いている。
揺れる橙の前髪を払って、灰色の空を見上げた。
(満月もいいけれど、三日月の方が良い。俺の本質を教えてくれるから。
俺が誰かを傷つける為の道具だと教えてくれるから。
この暖かい場所にいつまでも居てはいけないと謂っている様にも見えるけれども。)
佐助は、何故三日月が好きなのだ。
そりゃ、綺麗だからですよ。綺麗なものは好きだから。
俺は。
え。
俺の事は、好きか。
そりゃぁまぁ。
矢継ぎ早に喋った後、ダンナはさっきのように黙り込んだ。
俺の返答が何かおかしかったのだろうか。
(男に好きって謂われるのは気持ち悪かったのかもしれない。
まぁ俺だってダンナ以外に謂うのは嫌だし、謂われるのなんて真っ平ごめんだ。)
俺は嫌いだ。
……は
どうせお前は自分があんな月の様だとか言って一人で酔っていたのだろう。
……なんでわかんのさ、あんたは。
額に手を当てて溜息。
酔っていたなんて謂われると自己倒錯愛のようで嫌だけれども正直それに通ずる事を考えていたのだからどっちにしろ同じかもしれない。
にぃ、と子供のように笑っているかと思って覗いた顔は、真剣そのものだった。
あんなお前など要らぬ。
俺は、今の佐助を気に入っているからな。
に、と唇を上げて笑うと、ゆるり、唇が重なる。
一瞬の後、唇は離れ。
笑んだまま襖を開けて部屋へ帰っていってしまった。
真白になった頭を振って思考をこちら側に引き寄せ、ぼんやりと上を見上げた。
段々と細くなっていく月が、俺を嗤った気がした。