己の腹部が赤く染まっているのが見えた。 きっと昨日撃たれた銃弾が未だ埋め込まれているんだろう。 まったく、本当に良く逃げられたと思う。 ちょっとした理由であの組織から抜けようとしただけなのに。 (いきなり発砲するなんてブッソウだ) 兎に角逃げて逃げて逃げまくって、気付いたら見知らぬ路地でぶっ倒れていた。 最近見ていなかった雨に打たれて、 ぼけっと真赤な腹抑えて虫の息。 (痛くて起き上がれもしないんだから。)



(死ぬ…?おれは、しぬのか。)



何にも楽しくなくて遊び半分にいろんなことに首突っ込んで。 変な組織に入って、殺されかけて。 嗚呼、悔やんでも悔やみきれないくらい莫迦な自分。 ばらばらと落ちてくる雨。 ほら、水溜りに赤が滲み込んでゆく。 人の足音さえ聞こえないこの待ちでのたれ死ぬなんて。 なんて滑稽で愉快な死に方。 道化の俺にはぴったりだ、と自嘲。



「何をしておるのだお前は」



偉そうな口調の割には声は若い。 足元には茶色の高そうな革靴。 チェックのズボンの裾には水が染みている。 顔も上げるのが億劫だったけれど、何故か上げてしまった。 まさか此処を通る人間がいるとは思わなかったし、 何より自分に声をかけるなぞ、ついぞ思わなかったから。



「死にかけてんのさ、お坊ちゃま」
「死ぬ割には元気そうだな」
「いや、かなり痛いよコレは」
「痛みを感じている内は死ぬことはない。良かったな」



目の前の顔が、ゆうらりと笑う。 ついぞ見ていない純粋な笑み。 知らず知らずの内に、口角が上がる。



「そいつはどうかね。俺的には此処で死んじゃってもいい気分なんだけど」



至極冗談めいて、しかし本心はひっそりと潜り込ませて。 ばらばらと降ってくる雨は相変わらず冷たくて、だんだんと指先の感覚がなくなってくる。 ぬるり、と滑る己の赤い手を見ないふりして、静かに下を向く。



「本心か?それは」
「ええ、勿論ですよ」
「そうか。」



真剣な顔になった後、下を向いた。 ふ、と。ぐ、と腹部に圧迫感。 見れば、白い手が赤い俺の手の上から色々とはみ出してきた内臓やらなんやらを押し返していた。 今さら襲ってきた痛みに顔をしかめれば、くく、と喉で低く笑う声。 じろり、と恨みがましくねめつければ、近付いて、ゆるり、唇が笑みを象る様に弧を描いた。



「…何のつもり?」
「お前を助けるのも悪くないと思ってな」
「助けるの?俺のこと」
「……お前は、生きたいか?」
「生きたい、か?」



透き通るように薄い鳶色の瞳。 純粋な、何も知らないような水晶体に俺の間抜けな顔が映っている。 (嗚呼、捕らわれ、た)



「生きたい、ね。あんたの傍で」
「ならば大人しく助けられておけ」
「じゃぁ、お言葉に甘えておくわ、ダンナ」
「あぁ、ゆっくりと眠れ」



柔らかい声と共に、そ、と瞼の上に掌が下されて。 その温かさにゆっくりと目を閉じた。 瞼の上に、温かい唇が落ちてきた気が、する。



(殺し屋佐助とお坊ちゃま幸村は難しいと思うんだうん。)