Bunny Suicides





珍しく晴れた或る日の午後に。 自分が住んでいるボロアパートの屋根は吃驚するほど心もとないものだったけれど 光を浴びて熱を帯びたそこに先に寝転がる人の隣と同様にごろりと寝転がった。 珍しく黒い服を着ていて、内心少し驚いている。 ちらり、とこちらを見、何事もなかったかのようにぺらりぺらりと本を捲った。(これも十分珍しいことだ。あの幸村が本を読んでいるなんて!)



「なに、珍しいじゃん」
「たまには良いだろう、俺が本を読んでも」
「ま、おれが口出しできる筋合いじゃないことは確か」
「……政宗殿に莫迦だと言われて腹が立ったのでな」
「へぇ、何読んでるの」



無造作に渡された本。 可愛らしいうさぎの絵。 書いてある文字が日本語じゃない事に気付き、あんた英文読めたっけ、と疑問に思いながら読み進めていく。 が。 あまりにもブラックな内容にくらりと眩暈がした。 あんたこの意味わかって読んでんのか、と言いたくなったが、やめた。



「…なかなか個性的な本読んでるね」
「それだけか。ボキャブラリーが少ないな」
「…あーあんたはさぁ…もう、こう……あーもう何でもない」
「変な奴め」
「はいはい変でいいですよ」



蛍光オレンジの表紙をもう一度見遣り、伸びてきた手に戻せばさっきのように本をめくる音。 若干鬱になりそうな気分を打ち消そうとして、ぐしゃぐしゃになった煙草の箱から一本取り出して、銜える。 かちりと火をつける音とともに煙が青い空に吸い込まれた。 小さく部屋から聞こえる音楽は誰のものだったか、思い出せないけれど ひどく耳の奥に馴染んでぐるぐると脳内をエンドレスリピート。



「そういえば、今日なんで黒い服なの」
「もらった」
「だれから」
「政宗殿」



ふーんあっそう。なんて何でもないように答えているけれど、 腹の底でなんかよくわかんない熱いもんがぐるぐるしてて。 あーまた変になってる、俺。 この熱いものの意味は知ってるし、今までこの人に近付く奴らに対してたくさん経験してきたけど 未だに自分の中でそれを認めてはいない。認めたくない。 こんなぐちゃぐちゃしたもの持ってるのは、俺じゃない。 小さくなった煙草に八つ当たりを込めてもみ消した。



「どうした、具合でも悪いのか」
「そんなんじゃないよ」
「なら嫉妬か?」
「違う!嫉妬なんか」
「なんだ、しなかったのか?俺はお前に嫉妬させるために着ているんだが?」



なにそれどういう意味だよ、という言葉は唇から出ることはなく、 ただ、塞がれた唇のせいで息を奪われただけ。 目の前にある、伏せられた睫毛が光を浴びてきらきらと光っている。 茶色の柔らかい毛が頬を擽って、ひどく幸せな気分になる。 ぐちゃぐちゃでどろどろでぐるぐる回っているものが温かいものに包まれて ゆるり、と口端に笑みが零れた。



「この確信犯。腹黒」
「嫉妬丸出しの顔をしていた奴に言われたくはないな」
「…あー、もー、莫迦でしょあんた」
「その単語を出すな、俺は馬鹿じゃない」
「はいはい、幸村は確信犯で腹黒いとっても頭のいい子ですよ」
「お主面倒くさいだけだろう、否定するのが」
「空気読める幸ちゃんはえらいねー。KYって言われないよーやったねー」




何だそれは、と言いたげな顔をされたが、最初のようにごろりと寝転がって本の続きを読み始めてしまった。 なんだもう構ってくれないのかよ、とあまりの気分屋具合にがっくりしたが、 残っていた煙草にまた火を付けて、ぼうと遠くの空を見つめれば ふ、と隣から手が伸びてきて煙草を奪って、また重なる唇。 なんか今日この人変。あんたいつの間にキス魔になったの。するんなら俺だけにしてよね。 と、取り留めない事をつらつらと考えている内に気が済んだのか、ゆるりと唇が離れた。



「苦い、口の中が」
「当たり前でしょ、体に悪いんだから」



至極当然のことをいえば、ぽかりと口をあけた後。嗚呼、確かに健康に悪いな、と笑いながら幸村は言ったが、 あんたが握りしめてるその本の方が健康というか精神状態に悪いと思うよ。とは言わなかった。







(ちなみに数日後、幸村に貸された本を読みながら顔を真っ青にする政宗が居たとか居ないとか)