インプリンティング


「佐助ぇ。」
「はいはい。団子でしょ?」
「うむ!」



今まで振り回していた真赤なニ槍を置いて
縁側に腰掛けた。
はやく、とせがむ旦那に
慌てないの、と木の盆を片手に持ち、苦笑。



「はい、喉に詰まらせちゃだめだからね。」
「分かっておるわ!」



がつがつと団子(今日はみたらし)を食べ始めた旦那の隣に腰を下ろして
ついでに、と淹れてきた茶を、ずず、と啜る。


段々と暑くなってきた気温は
余計に蝉の鳴き声を増幅し。
ざぁ、と時折強い風が木の枝を揺らす。



「平和ボケしそう・・・。」
「佐助、団子もっと。」
「へーへー。」



団子に夢中な主はうまい具合に独り言を聞き流し
ほら、と更に差し出した団子に目を輝かせた。



「・・・餌付けしてるみたい。」
「ん?何と言ったのだ、佐助?」
「なんでもないよ、旦那。」



蜜が附いてる口端を親指で拭って
ぺろり、舐めた。
甘辛い味に、何処と無く懐かしさを覚えながら
すっかり冷めてしまった茶を、もう一口啜った。



「美味しい?」
「流石だな佐助。それでこそ真田忍隊の長!」
「忍の仕事は団子作ることじゃないんだけどね。」
「わっ分かっておるわ!」



ぼそり、と呟いた言葉に
頬を薄ら赤く染めて反論する姿は
幼い子供のままで。



「旦那は変わらないね。昔っから。」
「佐助も変わらないではないか。」
「相も変わらず駄目忍者、とか言ったら俺様泣くよ?」
「そ、そのような事ではなく。」
「えーじゃぁ何?」



俯いてしまった旦那を
下から覗き込めば、
いつもの姿からは想像出来ない程、弱弱しい声。



「いつも、某の隣にいてくれるだろう・・・?」



口開けて呆けた顔をしてしまった、思わず。



「・・・そりゃ俺にとっては旦那が主なんだし、当たり前だよ。」
「当たり前でも変わらぬことだ。」
「大体、半分義務みたいなもんだよ、それ。」



生まれ育った里では
主の為に働き死ぬ事が最高の忍だ、と
ひたすら刷り込まれてきたというのに。



「・・・ならば俺が死んだら佐助は誰かの隣で茶を啜るのか?」
「や、そーゆー事じゃなくてね、旦那。」
「佐助にとってそれが義務ならば、某が佐助の隣にいる。
 それならば義務という事ではなくなるだろう?」



馬鹿な旦那。
俺は、ただあんたの部下で。ただの忍者で。
そんな入れ込む事なんて、無いのに。
どうしようもなく、それが嬉しく思えてしまう。



「どうした佐助?泣いておるのか?」
「ははっ・・・かもねー。 あまりにも旦那が嬉しい事言ってくれちゃうから。
 俺様感激したの。」
「そうか」



ぎゅーって抱きつけば
あの頃と変わらない、甘い香りに鼻腔が擽られて。



「ほんとに旦那は変わんないね。」
「・・・佐助はやはり変わったな、よく考えると。」
「でしょー。俺様ってば忍の才能有るから」
「感情を出すようになったな。あの頃は無表情で怖かったぞ?」
「それはそれはすいませんでした。」



唇をほんのちょっとだけ合わせれば
破廉恥な、と優しい、ゆったりした声に誘われて
くすくすと微笑した。