彼はいつも
屋上で泣いていた。

いつも通りあの白い人の我儘もどきを聞かないふりして部屋を後にした。  
あの部屋じゃ白蘭さんが回線を繋いできて心休まる時間が無くなるからだ。  
一番の部下だなんて言われてるけど僕の仕事ってあの人のお守なんじゃないかって最近思ってきた。
体の中の疲れを出そうと思って吐いた溜息が尋常じゃない位深いもので眉間に皺が寄った。
あぁあんまり眉間に皺を寄せると痕になっちゃって大変なことになる。
ぐりぐりと揉み解しながら足を動かす。
とにかくあの人がいない場所に。
そう考えたら其処以外無くて、こつこつと靴底を鳴らしながら目的地まで歩いていく。
一際頑丈で重い扉を開けばぎらぎらと光る太陽に照らされる。  
地下のアジトの屋上、いわゆる地上は空気が爽やかで思わず深呼吸をした。  
 
 
「あ、入江…さん」  

 
上司の部屋で聞きなれた子供の声。  
え、と思って振り返れば木陰でうつらうつらしている10年前の沢田綱吉。
そういえば白蘭さんがツナチャンが居ないから探してよ正チャンって


「君、どうやって外に出たの」
「や、寝ぼけて歩いてたらしくって気付いたら此処で寝てて……」
 
 
ぼんやりと虚ろな目で此方を見ている。  
此処で沢田綱吉に逃げられたら今までのこの子供を連れて帰る作戦がパアになってしまう。  
どうすれば此方に帰ってくる、大人しく。  
傷でもつけたら白蘭さんが何をするか分からない。
あの人には珍しくこの子供に執着しているから。それはもう大変なほどに。
まだボンゴレ狩りも完了していないのだし、この子供が帰ったら向こうの士気が上がって  
 

「俺、帰らないですよ」


は、と顔を上げれば困ったように微笑む沢田。
超直感か?訝しげな視線に気付いたのか首を振る。
 
 
「顔に書いてありましたから」  
 
 
ポーカーフェイスって難しいですよね。
ほんわか、花でも飛んでいそうな雰囲気でごろりと寝転がる。
緊張感のない姿に少々白蘭さんの姿が被って頭を振る。
あの人がいない処で心を休めようとしてんのに、この子供はなぜ思い出させてくれるんだ全く。
さっきよりもだいぶ軽い溜息を一つ吐き、隣にごろりと寝転がる。
抵抗する意思は無さそうだし、ボンゴレリングもグローブも死ぬ気丸もこちらの手にある。
滅多な事が無い限り何もないだろう。  
 
 
「なんで帰らないの。今なら帰れるでしょ」  
「ボンゴレはきっと俺の代わりに11代目が決まっているはずで俺は居ない存在となってるはずだから、ですよ」  
「まさか。そんな情報は入ってきてないよ」
「…俺はもう、強制されて戦いたく、ない…んですよ」
 
 
臆病ですよね、ボスのくせに。
くぐもった声が不意に聞こえた。
鼻にかかっているような声など聞いたことが無かった。
泣いているのか、この子供は。
横を見れば反対を向いていて小さな背中しか見えなかったがその背は震えていた。
ぐすぐす、鼻をすする音が聞こえて思わず慰めるように頭をぐしゃぐしゃとかき回してしまった。
 
 
「俺の手で誰かが傷つくのが嫌だ」  
「誰かを傷つけるのも嫌だ」  
「傷ついていくのも見たくない」  


訥々と語られる言葉。  
合間には鼻を啜る音。  
以前白蘭さんが、マフィアのボスには向いていないね、ツナチャンは。とぽつり零した事があった。  
ツナチャンにこんなことを強制させた奴はみんな殺してやりたい、とも。
正直何を今さら、と思っていたのだけれど。
あぁ、あの人はこの子供の子の姿を見てしまったのだろう。
きっとこの場所で、今の自分と同じように。



 
(絆された、のか?これは。)